すこやか通信vol.04

姫路の出産の現場を守り抜く不育症治療費等を助成する「未来のママ・パパ応援事業」、出産を控えた妊婦さんだけでなくパートナーも一緒にPCR検査を行い、安心•安全な出産・育児につなげるとともに、新生児への感染リスクを最小限に抑える「新型コロナウイルス感染症から姫路の未来を守るプロジェクト」といった新しい施策を打ち出し、少子化対策に果敢に挑だ戦する清元秀泰市長。今回の「すこやか姫路」では、このコロナ禍の時代に今、未来に向けて何をやっていくべきかをお二人のゲストをお迎えしてお聞きしました。

姫路の出産の現場を守り抜く

清元市長
まず中林産婦人科クリニック院長の中林幸士先生にお聞きします。産婦人科の先生方は休日も夜間も関係なく、日々本当に大変な思いで診療されていることと思います。中林先生のクリニックでは、年間何人くらいの分娩を担当されているのでしょうか?
中林先生
近年徐々に増えてきまして、約800人のお産を預からせていただいています。
清元市長
姫路市の出生数が年間約4500人。年々出生数が減っている中で、相当な数の分娩を担当していらっしゃいますね。そのような中でも専門医として生殖医療にも取り組んでいらっしゃいます。不妊治療は年間、何件くらいありますでしょうか?
中林先生
体外受精や顕微授精などの高度生殖医療の件数で言いますと年間約15OS200例くらい、移植を含めるとその倍くらいになります。外来は産科と不妊治療を合わせて1日100人くらい。多い日で140人くらいの患者さんが来られまして、そのうち約半数が不妊治療の患者さんです。
清元市長
中林先生からは、今年3月に「姫路の子どもたちの生まれる現場が、コロナで大変な事態になっている」とご連絡をいただきました。その時の状況をお聞かせください。
中林先生
ちょうどコロナの市中感染者数が増えてきた時期で、妊婦さんが感染すると重症化する可能性があると報道されたり、赤ちゃんにも影響があるかもしれないという海外からの情報があったり。日本中が全く手探りの状態の中で、私たちが何とか姫路の産婦人科医療を維持しないといけないという使命感のような思いで日々の診療にあたっていたんですね。そして実際に現場は非常に困っていまして。そこで、どのような対策を講じたらいいのかを内科医でもある清元市長に相談させてもらったということです。
清元市長
突然起きたコロナ禍で、姫路市内でも病院でクラスターが発生する事例がありましたし、それに伴う風評被害も非常に大きかった。私が中林先生の話を聞いて心が痛んだのは、妊娠、出産が不安だという妊婦さんの声でした。人との接触を避けるため、本来なら一緒にいて励ましてくれる最愛のパートナーでさえ分娩、出産という人生の大きな門出に立ち会えない。これは大きな問題だと感じたわけです。そこで姫路市独自で考えたのが「姫路の未来を守るプロジェクト」でした。ただ検体採取時に、鼻の奥に綿棒を入れてクシャミが出た時に飛沫が飛びますから、採取が難しい。最終的に中林先生のご意見どおり唾液からとることになりました。妊婦さんとパートナーのPCR検査を臨月直前に行うことは、実際の現場ではどんな反響があったのでしょうか?
中林先生
それはもう「市長さん、本当にありがとうございます」と。決断後の対応も驚くほど早く、行政のトップが先頭に立って進めてくださったのがよかったと思います。患者さんも子どもを守るためには、いろいろと対策を講じないといけないことを理解されていますので、私の病院の妊婦さんは皆さん同意されて、ぜひ検査を受けたいとおっしゃっています。
清元市長
それはうれしいですね。9月までにすでに約2300件のPCR検査を行いましたが、どの妊婦さんも日頃からコロナ感染しないよう、気をつけられている様子で、一人としてこのプロジェクトから陽性者が出ていません。妊婦さんに限らず、阪神間に比べて姫路市内の市中感染率が低いのは、例えば手を洗いましょうとか、マスクをしましょうとか、3密を避けましょうとか、それを守る市民一人ひとりのみなさんの意識の高さによるものだと思っています。

心の健やかな成長を早期支援

清元市長
次は、高岡病院の中島玲先生にお聞きします。お子さんが生まれて健やかに成長するには、親御さんだけではなく、例えば保育園、こども園、小学校、中学校というように成長に沿った形で地域の関わりが必要だと。中島先生は今年6月、20歳未満の子どもを対象としたさまざまな精神疾患の治療に対応する児童思春期病棟「OHANA」を高岡病院内に立ち上げられました。また、長期入院されているお子さんたちは、学校に通えず勉強が遅れがちです。そこで、教職員が在中して小中学生は院内の教室で授業が受けられる、精神科では非常に珍しい「U—Uの木」を開設されました。私は、子どもが生まれる前から、さらに生まれてから成長して大人になるまでの期間が少子化対策として非常に重要だと思っています。中島先生の思いをお聞かせください。
中島先生
私たち児童精神科医はクリニックで診療しているのですが、日々いろんな悩みを抱えたお子さんが受診されています。それこそ産婦人科や小児科の先生方が出産からその後の新生児のフォローまで、大切に診てくださったお子さんたちを、身体面は小児科の先生が継続してしっかりと診ていかれるわけですが、心が健やかに成長するようサポートしていく部分が私たちの職務だと思っています。 クリニックの受診だけではなかなか快方に向かわないお子さんたちもおられますので、なるべく早期に子どもたちに関わってあげたいという思いから、「OHANA」を立ち上げさせていただきました。「OHANA」はハワイ語で「家族」のこと、またそうした家族的絆を支える精神を意味しています。今までは、入院が必要なお子さんは一般病棟でお預かりしていました。入院生活ではスタッフがチームとなリ、子どもに寄り添い、こころのケアを大切に、より良い成長につながるよう治療や日常生活をサポートしています。また入院によって学校教育が遅れることは、子どもたちにとって大きな痛手と考ス、清元市長のご協力のもと「UーUの木」を開設させていただいたわけです。教職員が常駐しますので、子どもたちは授業の遅れを取り戻したり、本人のペースで学習を積み上げたりと頑張っています。特に今はコロナ禍のために、病棟内で家族の面会ができない状態です。お母さん方もとてもfJ心配されている中でお預かりしておりますので、今まで以上に家族的に支えるという部分を特に大事にしながら治療体制をとっております。
清元市長
長期入院の子どもに学校教育を提供するのは教育委員会との調整が必要でした。書写養護学校の分教室という形で協議がまとまり、無事開設できたのは本当によかったと思います。
中島先生
あリがとうございます。他の都市の院内学級では、先生が常駐するのがなかなか困難だと聞いていますので、とても助かっています。
清元市長
精神科の中に児童思春期病棟という特殊な部門を作ったのも播磨では初めてですね。全国でも少ないんじゃないですか?
中島先生
少ないですね。兵庫県でも2カ所目です。
清元市長
近年、発達障害児が増えていて悩んでおられる親御さんがたくさんいらっしゃると聞きました。実際にどのくらい増えてきているのでしょうか?
中島先生
国のデータでは100人に1人と言われています。ただ、1歳半健診などでしっかリピックアップすると、健診率が高い地域では3.6%とか5%になったりするケースもあります。
清元市長
逆に言えば、1歳半健診、3歳児健診でもう少し正確にピックアップして、発達障害のある子どもさんを早期にしつかりと支援していかなければいけませんね。
中島先生
早期のピックアップ体制を確立して、もし発達障害などのお子さんがいらっしゃればできるだけ早く介入する。早期支援に重きをおくことが子どもさんにとっても親御さんにとっても一番大事だと思います。
清元市長
その最初の段階を担うのは小児科医ですね。私も健診を担当したことがありますが、どうしてもADHD(注意欠陥多動性障害)とかLD(学習障害)などは分からないままになってしまいがちです。小学校入学前に気がついても受け入れる場がないんですね。実際、行政も支援学級や通級学級を整備してはいますが、中島先生のご意見としては、症状が進んでからそこに通うよりも、もっと早い段階で専門医が介入できれば、そのようなお子さんが健やかに成長できるのではないかということですね。
中島先生
小児科の先生方は本当にお忙しいんです。姫路では児童精神科医が健診に参加して発達障害をチHックする体制がまだできていませんので、その辺りを私たちがお力添えできれば、もう少し発達障害が早期にピックアップされて、小学校、中学校と上がって社会へとつながる時に、それぞれの能力や特性に応じたよい力が発揮していけるのではないかなと思っています。

精神科医と産婦人科医の連携

清元市長
話は変わりますが、近年、産後うつはどのような傾向ですか?
中林先生
問題になってきています。子どもに対して強くあたってしまうとか、上手く育てられないということもあリます。私たちとしては、そういうお母さんをできるだけ支援するため、おかしいと思ったら助産師が一人ひとりにしっかり話を聞いて、姫路市の保健所につないでいます。保健所と精神科の連携をもう少し密にしていく必要もありそうですね。また、私たちが精神科疾患を合併している妊婦さんを診られないという点も大きな問題です。今度新しくできる県立病院に精神科はありますか?
清元市長
精神科はあります。ただ率直に申し上げると、平均在院日数を10日前後にするような3次救急病院での精神科のあり方は、おそらく派遣元の神戸大学でも考えられていると思いますが、それは急性適応障害だったり何か特化した形での診療になると思います。長期間加療が必要な統合失調症やうつなどもあるとは思いますが、「入院は連携している病院でお願いします」という形になるのではないかと推察 お二人は、1次救急、2次救急*ーを主に担当されていると思うのですが、例えば菫度の胎児の発育障害だったり、妊婦の容態で緊急手術が必要な時に対応できる病院にもう少し幅があってもいいはずですね。私は姫路市民の命を預かっていると常に心に留めています。播磨の連携中枢都市圏のトップとして100万人以上の命をしっかりと診る体制をつくることが自分の政治的目標でもありますので、精神科医と産婦人科医の連携は重要だと考えます。
中島先生
一般の精神科医は産後うつについては大体認知しています。ただ、先ほど中林先生のお話で、保健所と産婦人科医と精神科医の連携が上手くいっていないということは、やはりその通りだと。お母さん方も産後うつになると、いろんな感情が出てきてどんどん辛くなってしまうので、その辺りを連携しながらフォローしていくのは非常に大事だと思っています。
中林先生
今、産婦人科医は保健師さんに繋いでいる形で、そこから先がどのようになっているかという所ですよね。私の病院では1歳児くらいまでのお母さんを集めてベビーヨガとかベビーマッサージといった触れ合いの場を設けてフォローするような体制を心掛けて頑張ってきたのですが、今はコロナ禍のためzoomで実施するなど努力をしています。
中島先生
精神科の病院に、赤ちゃんを抱っこして受診することはなかなか難しいかなと思います。薬の処方が必要な場合は来院が必要ですが、その前の段階までに何とかフォローしていくことを考xるのであれば、私たち精神科医が産婦人科、保健所に対してのレクチャーなども検討できるのではないのでしょうか。 あと、新県立病院の精神科は短期間のせん妄や一過性の精神症状を対応するのかなと思います。私たちの病院ではスーパー救急という病棟も運営していまして、2次救急、3次救急レベルの精神疾患を扱っていますので、新県立病院とはいろいろと連携させていただきたいなと思っています。

少子化対策は思春期教育から

清元市長
折しも菅新首相が「縦割り行政を解消していきたい」と。私もこれは痛切に感じています。例えば、子どもを見守り、健やかに育てるなら、母子保健や婚活くらいから行政が関与する必要があります。婚活は産業局、分娩や出産、医療は健康福祉局、待機児童は子ども未来局、小学校に上がれば教育委員会、という具合に。私は医師でしたから、産婦人科医や精神科医の頑張りも分かるし、小児科の思いやリも分かります。 令和の時代のアフターコロナでは、縦割りを排除して―つのことをしっかりと守っていく。そういった意見の言える政策をとる必要があると感じています。 今、新県立病院の東側に少子化対策を兼ねた(仮称)母子健康支援センターの建設を予定しています。保健所の機能である健診という形でお二人の領域を繋いでいけると思います。そして健診以外に思春期の悩み相談も含めてやっていきたい。 これは少子化対策の要だと考えているのですが、子どもを生んでもらうために保育園やこども園を充実したり、給食を無料にするよりも、人生設計を中高生くらいの若者たちにも考えるフェーズが必要なのかなと。親御さんの中には、性教育は必要ないと言われる方もあるかもしれませんが、例えば不妊の大きな原因の1つにクラミジア感染症による卵管閉塞があります。「子孫を残していく自分の体をもっと大事にしましょうね」と、中高生になれば男子も女子もジェンダーフリーの中で考えていく。そのためのセンターを作っていきたいというのが次の政策の1つなんです。姫路市では近々、他市町に先駆けて2.mータレットを小中学生全員に配備する予定です。その中では単なる読み書きや語学を覚えるだけでなく、道徳や性教育とか「あなたも社会の一員なんですよ」ということを教育したい。成人を18歳に引き下げる検討がされていますが、むしろこのようなことをきちんと学ぶ環境ができていないのに、いきなり成人にしてしまうリスクについても考慮しなければ。全く縦割りでできていないように思います。
中島先生
その通りだと思います。少子化対策の中にしっかりとその子たちに何が必要であるか何を学んで行くべきかと周囲の大人がきちんと方向性を示し、そこに乗っかって力を付けていくということがまず大事です。
清元市長
もう1つは子宮頸がんワクチンの接種率がOECD加盟国*2最下位とうことです。これはワクチンの危険性が取りざたされています。新型コロナ感染症のワクチンなら誰もが打ちたいのに、子宮頸がんワクチンはいろいろな身体的不調が出ると。これも調べてみると、ワクチンの副作用で神経髄鞘反応がでるのではなく、思春期特有の悩みとか家庭環境が多分に影響して身体的不調がでる可能性がありそうなんです。こういったことを科学的に検証するとともに、産婦人科医と精神科医がしっかりと連携して、未来のお母さんを支援してほしい。子宮頸がんワクチンに対する啓発活動も含めて、少子化対策の一環として(仮称)母子健康支援センターを運営していきたいと思っています。お二人は、姫路の医療の未来を担っていくリーダーになられる方と思いますので、この施策に対してぜひご協力をお願いします。 最後にお二人から市に対しての要望、また姫路の医療の問題点があれば率直にお聞かせください。
中林先生
まず不妊対策では最善を尽くしていただいてありがとうございます。所得の上限撤廃については皆さん喜ばれています。ただ、まだ制度を知らない人もいるので、もう少し広報で伝えてあげてほしいですね。次に産後うつの尺度になっているブ「エジンバラスコア*3」という健康調査姫路でも採用していただきたい。 もう1点あります。不妊治療をなかなか職場で言い出せない方が多いですよね。行政には、お産の時だけ、赤ちゃんを身籠っている時だけというのではなく、不妊治療から産まれるまでを一括りとして考えた職場づくりを提唱してほしいなと。できれば姫路市役所が率先して職員さん向けに体制づくりをして発信していただきたいと思います。
中島先生
私からも2点お願いしたいことがあリます。まず、コロナ禍で保健所の業務は大変だと思いますので、厚労省が発達障害のスクリーニングに有効だと認めているM|CHAT*4を導入していただくありがたいと思います。 もう1つは思春期前の早期介入への支援です。思春期のフォロー体制を強化するという話は保健所から聞いているのですが、思春期に受診されているお子さんの6、7割は発達障害が占めています。ベースに発達障害があっていろいろな問題が起こっているのですね。思春期前のなるべく早い段階での体制を強化していただけると非常にありがたいなと思っています。
清元市長
今回、お二人に来ていただき本当に貴重な話を伺うことができました。このように現場からの問題提供をいただくのが一番ありがたいことです。時間はかかったとしても、しっかりと実現できるように頑張ってまいります。この対談を通じて市民の皆さんが清元市政に興味を持ち、今後に期待を寄せてくだされば幸いです。本日はありがとうございました。

すこやか通信vol.01

※2020年1月に発行された記事です。

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防災の観点からも病院と文コンはベストマッチ

清元
大勢の市民の皆さんからご支援いただいて市長に就任してから早8カ月が経過しました。同時に石見前市長もご勇退されて同じ月日が経ちました。石見前市長には市政へ大所高所からご意見をいただくために市の参与に就いていただくとともに、生涯学習大学校の名誉学長としてもご活躍いただいているわけですが、どのような毎日を過ごされていますか?
石見
生涯学習大学へは月曜と金曜に出勤しています。ここの授業は非常に面白いので、私もここで得たヒントが市民のニーズに応える重要な施策に反映できるんじゃないかと、いつも考えを巡らせていましてね。それに時々、特別講義もさせてもらっているんです。空きの火水木曜はこれまで疎遠になってきた皆さんとの交流に充てています。「市長を辞めたら陶芸と農業をやる」と言っていたんですが、これがなかなか大変で、腰を据えて取り組むところまで至っておりませんで…。普段から結構街に出ているんですよ。 清元市長は市長になられて、どのような感想を持たれていますか?
清元
現時点では正直申しまして、石見市政の事業を完遂すべく前進するのが精一杯というところです。令和元年度の事業はほとんどが石見市政からの継続案件ばかりなので、まだ何の独自性も出せていないなと思っています。
石見
それでも夏には庁舎の空調設定を28度から25度に下げて、全国的にも大きな話題になりました。この発想は今までにはなかった事です。
清元
ありがとうございます。これは、市役所の温度を下げれば職員の作業効率も上がるんじゃないかと考えて始めたプロジェクトなんです。実は、この検証結果を今年の夏に子どもたちの教育環境の改善に繋げたいと考えています。 さらにその延長線上なんですが、今度は学校トイレの洋式便座化とドライ化についても取り組み始めています。入学したての児童が「和式のトイレが恐い」と言って学校に行くのを嫌がるとか、学校が避難所になった時には特に女性が「和式は苦手」という事をおっしゃるので、市立小中学校を洋式化していこうと国の予算獲得へ動いているところです。 このような施策へ手が打てるのも、石見市政が小中学校へのエアコン設置の予算を真っ先に付けてくださったからなんですね。非常に補助金率の高い予算を国から取ってきていただいた。
石見
やはり、行政は継続性が大事なんですね。私が市長に就いた時、一番気を付けたのは、市長が変わったからと言って政策をコロコロと変えては絶対にいけないという事。前市長が残されたいろんな政策を全部踏襲したんですね。私は16年間やってきたので、踏襲していただく事が結構多いと思いますから、よろしくお願いしますね。 ただし、清元市長は医療や福祉、教育の専門家です。これから一層拍車がかかる長寿社会で思う存分本領を発揮してください。ちょうど今、イベントゾーンでは兵庫県で一番大きな新県立病院が建設中ですから。
清元
イベントゾーンを教育や産業の振興に繋げていくのは当然なのですが、私は文化コンベンションセンター(文コン)の横に市民の命の〝最後の砦〞となる医療拠点を持ってきたという事は石見参与の大英断だと思っています。 というのも、私が石巻市で経験した事なんですが、大規模災害時には病院の収容人数を超えて皆さんが押し寄せてきます。すると、結局は駐車場に大きなテントを建ててトリアージポスト(治療前に負傷者の重傷度・緊急度を判断する場所)を構える事になるんですね。ところが、この文コンがあるので、患者さんたちが場合によっては夜を明かさないといけない時には非常に助かるのです。
石見
収容能力を補完できるのは私も良かったと思います。それともう一つ。病院滞在中のクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)の事も考えたんですよね。治療の合間に音楽を聴きに行ったり展示会を見に行ったりして心の平穏を保ってもらえると。そういう事もちょっと考えました。
清元
新県立病院は3次病院ですので、在院日数は恐らく2週間を切りますから、患者さん自身はなかなか行く時間がないかも知れませんが、看病して気持ちが落ち込んでいるご家族の方々がふっと行ける場所があるという事は重要かなと思いますね。病人も大事ですが、看病する人を癒やすのも病院の大事な機能なんです。 もう一つ、大規模災害の被災地にはありとあらゆる支援物資がどーんと送られてくるのですが、それらを仕分ける作業場も必要になるんです。姫路の新県立病院と文コンは駅の間近に建つわけですから、鉄道が動きだせばすぐに支援物資も集まるし、播但線や姫新線に乗せて効率的に配達する事もできると。まさに防災機能の観点から言っても病院と文コンは最高の組み合わせだと思うんですね。
石見
今後はこの病院と文コンを中心に市民のQOLを高めていく事が市政の至上命題になります。ですから、このタイミングで清元市長が実現したという事は姫路市にとって本当にラッキーだと喜んでいます。
清元
ありがたいことです。病院そのもののは神戸大学が中心となって運営していきます。じゃあ、市に何が求められているのかと言うと、最も重要なのは人材育成なんですね。どんな最新鋭の設備を持った病院でも段々と古くなっていきます。だから私たちは、次の10年先、さらにその次の10年先を見据えて、その時代、その地域に必要となる医師や看護師、薬剤師、検査技師たちをいかに育成していくか、だと思うんです。
石見
まさにイベントゾーンの最初の目的である医工の連携が始まる。それが新しい産業の創出にも繋がり、その新産業で医療福祉を向上させていく。このグランドデザインを着実に遂行していってください。
清元
はい。石見市政が道筋を付けられた医療系高等教育・研究機構を県、獨協学園と一緒になってしっかりと発展させていく決意です。 ところで文コンは早くも鉄骨が組み上がってきましたね。完成が楽しみです。オープン後の姿をどのように思い描いていらっしゃいますか?
石見
そうですね。これは私が大学教授時代に実施した調査なんですが、毎日をのんびりと暮らしている人と忙しく過ごしている人、いずれも65歳以上の方を対象にどっちが幸せなのか「幸せ度」を計算してみたんです。すると、多忙の方が圧倒的に幸せだという事が分かりまして。ですから、市長になってからは事ある毎に〝全員参加〞を提唱してきたんです。つまり、市民が公民館活動や生涯学習活動にどんどん参加するような仕組みを自治会を中心につくっていったんですね。 その効果もあって皆さん、絵や字を習ったり、焼き物をしたり、歌を歌ったりと活動も段々と活発になっていったのですが、やっぱりこれは密室で黙々とやっているだけではアカンのですよ。大人にも発表の場を作っていかなアカン。という事で、文コンでは高尚な文化イベントもやっていただくのですが、市民の発表の場としてもとことん活用してもらいたいという希望を強く持っています。
清元
公民館活動は大事ですね。私も時間がある限りなるべく色々な活動や発表会を観て回るよう努めているのですが、驚くべき才能をお持ちの方が沢山いらっしゃいますから。石見参与がおっしゃるように、生涯現役で文化活動を続けている方々は、数年ぶりに出会ってもあまり老けてないんですよね。〝全員参加〞は大賛成です。
石見
私は生涯現役の理想を正岡子規に求めたんですよ。カリエスで寝たきりの状態でありながらも弟子や夏目漱石に色んな指図をするんですね。死の直前まで創作活動に意欲を燃やした。だから、「健康を害しても生涯現役はあるんやで」という事を言いたいんです。
清元
私の友人に〝笑い療法士〞という医者がいるんです。彼は癌の末期患者でもお笑いを観に行かせたりするんです。人は面白い事を観たり話したりして笑うと、明らかに血液中のナチュラルキラー細胞と言って、癌を食べにいく免疫細胞が増える事が医学的に分かっているんですね。だから、笑ったり歌ったり、楽しくみんなで会話したりというのが大事なんだという事はまさにその通りだと思いますね。
石見
そういう科学的実証実験もぜひ姫路で。「国民の幸せのために、こんな新しい実験をしたい」と熱意を訴えれば、厚労省も補助金を出してくれるんじゃないかな。
清元
昨年9月から厚労省から市の医監としてキャリアの方に来ていただきました。国と連携して研究してみます。医監は基盤研究分野や国際部門を担当されたり、新潟県の副知事も経験されているくらいの多才な方なので、そういった人脈も使わせていただきながら種を蒔いていきたいと思います。

「天地人」の総合力で播磨のリーダーに

石見
私も市長になった頃は国の補助金を取りまくりました。初めは「姫路だけそんなに取って良いのか、平等であるべきじゃないのか」と自問自答したのですけれど、やがて「それは違う」という結論に達しましてね。各自治体が頑張って補助金を取り合いして、そのためにとことん知恵比べした結果が、結局は国全体に波及する。だから姫路ももっと知恵を出して、国に「それは面白い!」と思わせるような補助金を獲得していってください。
清元
つまり、新しい事業のモデル都市になるという事ですよね。それに関して、私も就任以来何度も国交省へお邪魔しているんですけれど、石見参与が凄かったなと思うのは、国交省の幹部が口を揃えて「姫路の駅前は素晴らしい。ウォーカブルな(居心地が良く歩きやすい)街として日本中のモデルにしています」と言うんですね。ウォーカブル推進都市の最先端事例に姫路が紹介されているんです。 この事を厚労省で話したら、強く関心を示してくれまして。なぜかと言うと、少し前までは食べるばかりで運動しなければメタボになったり、ロコモティブ症候群といって関節が痛くて動けなくなると言っていたんですが、最近はそれに加えてフレイルといって、歩けなくなると途端に認知機能が下がるという事を指摘し始めたんですね。だから〝歩く〞という事を一番に推奨しているんです。
石見
姫路は駅からお城まで800㍍。人は500㍍位なら難なく歩きますが、800㍍になると少し頑張らないと。今度の病院も800㍍。姫路は歩き回る街という事を都市計画の基本にずっと考えていましたので、ちょうど良いですね。 私は大手前通りを「あれは道路と違うで、公園通りやで」という意識で整備したんです。だからスタスタ通り過ぎるんじゃなく、寄り道をしまくって歩くというような道にしたいんですね。オープンカフェやレストランが広まれば良いのですが。
清元
清元 駅からお城まで続く通りはまさにエモーショナル。やはり歩いても店が少ないと寂しいですよね。だから「目指すはシャンゼリゼ」をコンセプトに、商店街の人たちで立ち上げた大手前通り活性化協議会にいろんなワゴンやお店を出してもらう「ミチミチ・プロジェクト」という社会実験を昨年11月の1カ月間実施したんです。これを5カ年計画で続けるのですが、官が主導すると一過性のイベントで終わってしまう事が多々ありますので、民の参加に対して官が強力に応援するという形に持っていきたいと考えています。この間に商店街の皆さんには観光で儲ける体制を整えていってほしいと願っています。
石見
おっしゃるように役所が実施したら単なるイベントで終わってしまう。ビジネスに繋がってこそ魅力的なストリートが完成するんですよね。最後はビジネスに繋げなアカンと私も思っているんです。その辺りの事は私もあまり上手くできていませんでした。行政は条件整備をした上で、実際にそこでビジネスを展開してくれる皆さんとタイアップする、そういった協力体制がちょっと弱かったですね。これからよろしくお願いします。商店街の皆さんには商売に抜け目なく便乗していただきましょう。
清元
観光振興にも関連しますが、コンウィ城との姉妹城提携についてお礼申し上げます。石見市政でしっかりと仮調印していただいたおかげで、先日ウェールズに渡って本調印をしてくる事ができました。コンウィ城という文化を守ってきた人たちと播磨の文化の象徴である姫路城を守ってきた我々が世界遺産という共通点で繋がったという事で、姉妹都市という従前の漠然とした付き合いでなく、もっと深い文化や観光ツーリズムに対する国際交流の絆が生まれたなと感じています。
石見
私もコンウィに行った時には「お城を縁に市民交流をやりましょう」と言われて嬉しく感じました。それで「子どもたちの交流をやろう」とも言ってくれたんです。
清元
現地の市民と話すと、姫路市民と同じですね。そこにお城があり、伝統文化を守ってきた事に誇りを持っている。姫路城があるから姫路の街並みをきれいにしていこうとか、次の世代に繋いでいこうという気持ちがコンウィの皆さんにもあるんですね。そういう気持ちを軸に、これから中高生も含めてお互いの歴史を学び合い、草の根交流へと発展させていければと願っています。
石見
私が市長に初当選した頃はちょうどJR姫路駅の高架化が完成しようという時期でした。それが完成すると今度は播磨全体を元気にする大きな枠組み、8市8町の播磨圏域中枢都市構想に注力してきました。これからは、いよいよそれに血を通わせ、肉を付けていかねばなりません。要するにソフトウエア、人材育成が望まれるという時に清元市政を誕生させたという事で、市民の皆さんの選択に改めて感謝します。 清元市長にはこれまでの専門を活かして、8市8町の先頭にも立っていただきたい。地方分権時代という〝天の時〞、世界から脚光を浴びる城があるという〝地の利〞、そして最後に優秀な3800人の職員という〝人の和〞がある。3つの条件が揃った総合力でもって、歴史ある播磨の発展の中心として頑張っていただきたい。
清元
温かいお言葉をありがとうございます。姫路市民のために頑張るのはもとより、「姫路ナンバーを付けている車が走っているエリアはみんな仲間や」という意気込みで挑戦していきます。姫路市政を16年間担ってこられた石見参与から「これはこういう経緯で、こんな事もあるんやで」と助言をいただけるのは本当に幸せな事。これからもよろしくお願い致します。本日はありがとうございました。